★美濃加茂市長 藤井浩人氏への有罪判決の是非★

 

◆「疑わしきは罰せず」「推定無罪」という刑事裁判における原則は守られたか? | 贈賄側の証言を元に下された有罪判決の是非 | 美濃加茂市長が辞任して再立候補することへの疑問◆

 

12月の議会に向けて原稿を作成していたところ、NHKの速報でNEWSが流れました。地震の速報かな? と注意深くテロップに見入ると、美濃加茂市長の藤井浩人氏に名古屋高裁が有罪判決を下したとのこと。地裁での一審判決が破棄され「懲役1年6月」「執行猶予3年」「追徴金30万円」との判決。私は藤井市長のことを存じているわけではありませんし、事実は本人にしかわかりません。日本の司法のシステムが下した判断を糾弾するつもりもありません。しかし、この事件は贈賄側(つまりお金を渡した側)の自爆テロの可能性があることを考えると、大いに疑問の残る判決であると考え、少しだけ綴りたいと思います。この景色の綺麗な地方都市で何が起きているのでしょうか?

※画像出典:美濃加茂市ホームページ(www.city.minokamo.gifu.jp/)

 

 

●現美濃加茂市長 藤井浩人氏の経歴●

 

まずは、藤井浩人氏の経歴をご紹介せねばならないでしょう。

・1984年生まれ(岐阜県美濃加茂市蜂屋町出身)

・2007年:名古屋工業大学工学部システムマネジメント工学科を卒業。同大大学院進学

・2009年:名古屋工業大学大学院を中退。学習塾の塾長に就任。

・2010年10月:美濃加茂市議会議員選挙に立候補。1,602票を獲得してトップ当選。

  市議会では一人会派「真摯」に所属。

・2013年6月:美濃加茂市長選挙に無所属で立候補。11,394票を獲得して当選。

  当時28歳の全国最年少で市長に就任。(藤井:11,394票、森:9,138票)。

 

 

●美濃加茂市 贈収賄事件の概要●

 

次に本事件の概要を時系列に記します。

・2014年6月:事前収賄容疑などにより逮捕される(約2カ月間の勾留後、公務に復帰)。 

※岐阜県美濃加茂市の浄水プラント導入設置に便宜を図った見返りに名古屋市北区の浄水設備業者社長から、現金30万円を2回に分けて受け取った受託収賄の容疑。

※浄水設備業者社長は、2014年の2月と3月に別件の詐欺罪の容疑で逮捕されており、愛知県の10金融機関から約4億をだまし取っている。

・2015年1月:本件の贈賄罪および別件の詐欺罪に問われた会社社長に対して、名古屋地方裁判所は懲役4年の実刑判決。

・2015年3月:名古屋地方裁判所が藤井市長に対し無罪判決。

・2016年11月28日:名古屋高等裁判所が藤井市長に対し有罪判決。

 

 

●美濃加茂市長の収賄容疑での有罪判決は何が問題なのか?●

 

それでは、今回の美濃加茂市長の裁判の問題に迫ってみましょう。

 

・藤井市長:「現金を受け取った事実は一切ない」と起訴内容を否認。「無罪を主張」

・浄水設備業者社長:現金30万円を2回に分けて渡したと「贈賄を主張」

 

これに対し、名古屋地裁判決は「贈賄側の供述の信用性には疑問があり、現金の受け渡しがあったと認めるには合理的な疑いが残る」として、藤井市長に無罪の判決を下しました。

 

市長(収賄容疑側)がそんな事実はない(賄賂は貰っていない)と否定し、民間会社社長(賄賂容疑側)が賄賂を渡したと主張している。収賄側の市長を有罪にするのであれば、賄賂を受理したという確かな証拠がなければならないと考えますが、賄賂を贈った側の主張で罪に問われて、高裁でそれが認められ有罪となったわけです。

 

もしも、「賄賂を受理した明確な証拠が出たので、市長は有罪です」ということであれば、理解できますが、収賄の証拠はなくても「贈賄(賄賂を贈った)の主張に説得力があるから有罪である」ということが認められるのであれば、これは由々しき事態ではないでしょうか?

 

 

簡単に図にしてみました。例えば、主義主張が異なったり、権益を奪いかねない市長や代議士、都道府県議員や市町村議員がいたとします。ここではわかりやすく悪意のある第3者の政敵といたしましょう。もし今回の贈賄側の主張の妥当性だけで、収賄側を有罪に出来るとするならば、政敵に勝手にお金を渡せば良いのです。本人が認識出来ない方法(気づかれないように)で振り込むのが一番悪質で効果がある方法でしょう。いまや、携帯電話の番号さえわかれば、相手にお金を振り込むことが出来る時代です。例えば、資金繰りに悩む業者の方を見つけてきて、500万円の投資をするから、政敵に100万円振込ことを依頼する。もちろん、この悪意のある第3者は幾重にも経由し、少しでも賢ければ、証拠の残るような資金の提供は実施しません、

 

裁判所の司法統計によると、平成25年の第一審において、賄賂の罪の有罪率は93.8%となっています。しかし、実刑判決は0件(0%)、執行猶予判決は30件(93.8%)、無罪は2件(6.3%)です。有罪となったとしてもほぼ執行猶予が付される傾向となっています。もしも、企業の存続の危機に瀕している中小企業の社長が、家族や従業員のためを思って、10倍の金額を提示された際に、すべての人がこの誘惑を断ることが出来るでしょうか? だからこそ、賄賂を贈った側の供述を根拠に立件したり、ましてや有罪判決を下すのではなく、事実関係を確実に検証せねばなりません。特に今回の場合は、賄賂を贈った側の社長は、他の事件でも詐欺や贈賄の罪を犯して有罪が確定しており、贈賄の罪が一つ加わったところで、量刑への影響は少ないという状況であります。

 

司法判断として、誰もが納得のいく、論理的な理由を明確にして判決を下すべきではなかったでしょうか? ※名古屋高等裁判所の判決文が公開され次第、追記したいと思っております。

 

 

●30万円という賄賂の金額と市議会議員の権限について●

 

さて、ここからは個人的な感想になりますので、ファクトベースの問題提起までをご覧になりたい方以外は、読み飛ばして下さい。そもそも、今回の事件は「十数回の事情聴取を受けていた美濃加茂市の税務課長が2014年8月に自殺」するなど、非常に闇の深い事件です。しかも「市長就任の1年後の2014年6月に市議時代の事前収賄の疑いで逮捕」、「収賄金額が30万円」など、理解に苦しむことが多々あります。

 

今回の贈収賄疑惑は、美濃加茂市の中学校へ雨水濾過機を設置する便宜を図った見返りに30万円の賄賂を渡したというものですが、突っ込みどころが満載過ぎて腱鞘炎を起こしそうです。まず、ほとんどの方がご指摘の「30万円」という金額の安さについて。リスクとリターンの観点から見て、30万円程度の金額で危ない橋を渡るでしょうか? 世の中にはリスクとリターンの計算が出来ない方もいらっしゃいますが、藤井氏は名古屋工業大学出身で、単純な算数が出来ないとはとても思えません。しかも、市議会議員に当選して、市長を志していた時期に、そんなつまらないミスを犯すでしょうか?

 

次に便宜の題材となっている雨水ろ過装置についてです。受発注の詳細は確認出来ておりませんが、本装置は数十万円~数百万円の機器のようです。例えば億単位の建設や機械やプロジェクトであれば、賄賂を贈ってでも受注したいというインセンティブが働くかもしれませんが、1000万円以下の受注しか見込めない機械では、贈賄側にもリスクに対するリターンが小さい。賄賂を贈る方もメリットがほとんどなくて、理解に苦しみます。

 

ここで市議会議員に賄賂を渡すことで受注が出来るのか? という点を検証してみましょう。市町村議会議員が持っている権利としては「議決権、同意権、検査権及び監査請求権、調査権、意見書提出権、請願及び陳情の受理、自律権、選挙権」があります。具体的には、行政(市長)の決定を否決することは出来ても、受発注への介入権限はございません。

 

ただし、先日NHKで特集(地方議員の“口利き”独自調査で実態が)された通り、特定の業者の利益につながりかねない要望をする議員もいるようです。もし藤井市長が雨水濾過機の設置や、業者への利益誘導を働きかけた証拠が提出されたのであれば、贈収賄の疑惑も説得力を持ちますが、地裁判決を読む限りでは、贈賄側の主張のみが証拠となっているようです。
※なお、私はすべての要望を公開して実施しておりますので、全国の自治体で議員からの口利きを「記録する」という制度が広がっていることは大賛成です。

 

繰り返しますが、贈収賄の事実は本人にしかわかりません。世界は理不尽で不公平なことが多くて決して綺麗なものではありませんが、「推定無罪の原則」は守られなければならない正義ではないでしょうか? 有罪判決を下すのであれば、明確な理由と根拠が示されるべきだと思います。この判決が判例になり、贈収賄は贈賄側の主張だけで立件&有罪判決を下されるようなことなりかねません。以上、冤罪の可能性が少なくない本事件について胸が苦しくなり綴りました。ご覧になっていただきありがとうございます。

※夕方のニュースではASKA氏の報道の方が優先されてとても残念です(>_<)。

 

 

●美濃加茂市長 藤井氏が辞職し、出直しの市長選挙に改めて立候補する件●

 

(※12月7日追記)本日(2016/12/07)以下の報道がありました。

 

→「選挙で審判を」2審有罪の美濃加茂市長が辞職願

 

私は本記事でも綴っております通り、業者から現金を受け取ったとする「受託収賄などの罪の事実」は本人同士にしかわからない点なので、議論しても仕方がないと思ています。個人的には、30万円程度の額で危険を冒すとはとても思えないことから冤罪だと考えております。何よりも、本記事の冒頭でも述べている通り、「疑わしきは罰せず」「推定無罪」の原則を無視し、贈賄側の証言を根拠に下された名古屋高裁の有罪判決には激しく疑問です。

 

しかし、今回の「高裁の判断と闘う」のを「市長選挙で審判」というのは、論理的な主張ではないような気がします。冤罪の可能性の高い有罪判決を下されたことは本当に気の毒ですし、名古屋高裁の判断には耳を疑いますが、どうして現在の市長職を一旦辞して、再度立候補する必要があるのでしょう? このまま市長の職を全うして、最高裁で無罪の判決を勝ち取り、次回選挙にも挑戦していただくと良いと思うのです。

 

藤井市長の「実無根の疑いをかけられた私としては、到底受け入れられません」との上告する考えは全面的に支持いたしますし、原告証言の妥当性に疑問がある有罪判決などが判例となってしまうことに恐怖を覚えるので、応援しておりますが、辞任しての立候補は、まるで有罪か無罪かを有権者に問うようで疑問です。常識的に考えれば、対立候補は高裁判断に対して、意見を述べる立場になく、選挙の争点がおかしなことになってしまうでしょう。そして、打算的に考えれば、対立候補が勝てる見込みはほとんどなく、それが例えどんなに優秀で立派で人気のある人物でも立候補し辛いでしょう。加えて、三権分立の機能からも問題ではないかと思います。

 

応援している方は無罪を信じていらっしゃいますし、多くの美濃加茂市民が藤井市長を応援しているようですし、私も若く有能な首長の活躍を心から期待しています。だからこそ、正面突破するなり、個人的には寝技でも全然問題ないと思いますので、主張と手法が論理破たんを起こさないような自身の正義を貫いていただきたかったなぁと思います。

 

にしても、松阪市長の騒動といい、「出る杭は打たれる」どころか、「出る杭は徹底的に叩き潰す」という現実と、既得権益の力強さに恐怖を感じます。全国区のニュースとなった本事件が、公明正大な結果となることを期待して、長々と失礼いたしました。

 

(余談)市長辞任に打って出たのは、恐らく、高裁の判決のニュースが、ASKA氏の再逮捕のネタで被ってしまいかき消されたため、高裁判決のおかしさについて注目を集めて、最高裁で無罪を勝ち取るためのアプローチであると邪推しております。問題はASKA氏の容疑をトップニュースやワイドショーで面白おかしく扱い、美濃加茂市の疑問の残る判決を騒がないマスコミの姿勢でしょう。日本のジャーナリズム機能は絶望的ですね(^_^;)。